パネルディスカッション
「地域医療の確立」〜スイッチOTC薬を通して医師と薬剤師の連携をさぐる〜
テーマ説明
 高齢化社会の本格化にともなう医療費の増大、地域偏在型の医師不足といった問題が、日本の医療サービス全体に大きな問題としてクローズアップされています。そうした背景から、薬局を中心としたセルフメディケーションの推進に期待が寄せられてきましたが、かつては健康相談の場であった薬局も今や調剤薬提供の場へと変わってしまいました。そうした中で改正されたのが一般用医薬品の新販売制度ですが、3年経った今現在、OTC薬の売り上げは横ばいで、特に第一類医薬品は低迷している状況です。
 健康食品サプリメントの市場が増大する一方でOTC薬の売上げが伸びない。この現状に際して、真の意味でのセルフメディケーションを定着させるために、まずどのような環境を整えるべきなのか。今一度、根本から考え直してみる必要があるのではないでしょうか。その1つとして今回テーマに掲げたのが「かかりつけ薬局」と「かかりつけ医」の連携によるセルフメディケーションの仕組みづくりです。パネルディスカッションではこうした地域医療における医薬連携の課題や、そこに役立つと思われるスイッチOTC薬についてそれぞれ専門の立場から活発な意見交換がおこなわれました。
総括
もちづき まゆみ
【座長】
望月 眞弓 氏 (慶應義塾大学 薬学部 教授)
 これからの薬局には、医療従事者同士という立場で医師と連携できる薬剤師が必要です。例えば、日頃の接客や健康相談の中から、生活習慣病や心の病気をかかえる生活者を見つけて受診を促し、さらにフィードバックされた医者の診断(処方)にもとづいて生活指導や服薬指導を担当していく。
こうしたスキルミックスの機能を充実させることで医師との信頼関係のみならず生活者との信頼関係を築くことが、真のセルフメディケーションの一歩となるでしょう。

パネリスト
さいとう かずゆき
斉藤 和幸 氏
(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
 一般薬等審査部 部長)
【医薬品の承認審査の立場から】
 当機構では平成22年6月よりOTC薬の申請前相談を行っております。これまでで一番多かったのは新一般用医薬品の開発妥当性に関する相談で、いわゆるスイッチOTCとして開発をしても良いかどうかの判断です。
 承認実績については、平成18年から毎年8〜10成分が承認されていまして、薬効では再発膣カンジタ治療薬や再発口唇ヘルペス薬、最近はアレルギー用薬が目立っています。
 OTC薬の普及には薬学部教育によるOTC薬の販売における注意点等の講義が必要であり、例えば同じ成分でもわずかな用量の差で抗アレルギー用薬(医療用)として作用する場合と、睡眠導入薬(スイッチOTC)として作用する場合があります。そして、これらの情報は薬局・薬店における販売でも当然利用されるべきであり、禁忌や副作用等に関する情報提供など、医療用医薬品、一般用医薬品を問わず正しい情報の入手と、患者さんへの適切な情報提供が必要です。
 今後、一般用医薬品、特にダイレクトOTCやスイッチOTC薬にとって大切なことは、受け皿となる薬局・薬店の薬剤師や販売者の資質の向上と、地域の医師との連携です。そして、両者の信頼関係の構築のためには「お互いの目的が同じであること」を理解し、「相互の専門性を尊重する気持ち」を持ち、相互理解に至るまでの「日頃のお付き合い」が必要と考えます。
やまうら ともゆき
山浦 知之 氏
(社団法人 上田薬剤師会 理事/山浦堂薬局)
【地域薬局の立場から】
 スイッチOTC医薬品を販売する上で必要なのは、患者さんに関するより多くの情報であり、それを得るためには日頃から“かかりつけ薬局”としての信頼を築いておく必要があります。
 私が所属する上田薬剤師会では、昭和49年から月1回の勉強会(調剤事例研究会)を開催し、毎回、幅広い分野の専門家に講義をお願いしています。また薬局では軽医療の広い分野にも対応できる商品をそろえ、深夜早朝の時間外対応によって医療提供施設としての認知を広げる一方、薬剤師会も休日・夜間当番など輪番制を布き、すべての医薬品供給に責任をもつ体制を整えています。
 このように薬局、薬剤師会、医師会の3者が連携して交流を深めることで薬剤師が直接医師に電話する場合もありますし、学校、公民館、有線放送での啓発活動や社会貢献などでも協力体制がとれるわけです。
 セルフメディケーションの推進に私たち薬剤師が果たす役割はいろいろあると思います。生活者には薬に関する基本的な教育を、また重症化する前の段階で患者を医師へつなぐこと、薬剤師が生活者と医師との間に立って役割を果たせばセルフメディケーションの推進に役立ち、医療費削減につながるのではないでしょうか。
なかむら まさみ
中村 雅美 氏
(江戸川大学 メディアコミュニケーション学部
 情報文化学科 教授)
【医療消費者の立場から】
 これからの地域医療には次の4つの要望があります。
 1.疾病の概念の変化・健康への不安にこたえる医療
 2.QOLの向上をまず優先する医療
 3.こころの医療への対応
 4.自立できる医療
 そして地域薬局の薬剤師には、“薬のプロ”としてのスキルとともに、“医療従事者”としての自覚をもっていただき、地域の医師と連携して“患者のよき相談相手になること”を望みます。生活者の権利としてのセルフメディケーションには、何よりも気軽に健康相談ができ、適切なアドバイスをくれる専門家が必要なのです。
 今後のセルフメディケーションの上に役立っていく医薬品とはどのようなものでしょう。それは「生活習慣病の薬」、「加齢にともなう疾患の薬」、そして「QOLを向上させる薬」(生活改善薬)になるだろうと私は思います。
 とくに生活習慣病の薬に関してはまず医師の診断を受け、そのあとの継続的なケアに薬剤師が役割を果たしていくようになるはずです。そうした意味から、薬学6年制となり“医療とは何か”をしっかり学べる環境が整ったことに、大変大きな期待を抱いています。
まえの てつひろ
前野 哲博 氏
(筑波大学大学院人間総合科学研究科
 地域医療教育学 教授)
【地域医療の立場から】
 私は外来診療をしておりますが、OTCのことについて大学ではほとんど教えていませんし、実際、薬局での患者さんとのやりとりも見る機会がありません。処方箋を書いた後の院外のことは、ほとんどわからないのが正直なところです。
 これと逆に、薬剤師は処方箋1枚で医師の診断を読み解かなければなりませんので大変だと思いますが、中にはどうしても能書に頼ってしまい、なかなか教科書通りには行かない医療の実情を十分理解していただけない場合もあります。それから、一般用医薬品の販売については、もし店頭での初期診断が正しくなかった場合でも、その結果が医師から薬剤師へフィードバックされるようなシステムがないですね。結局、双方のコミュニケーション不足が、薬剤師と医師間の連携を阻む一因になっていると思います。
 今後は医師もセルフメディケーションやOTCの仕組みを知るべきで、薬剤師のほうからも積極的に医師とのパートナーシップを図るといった関わり方をお願いしたいと思います。また、我々医師も忙しい外来で服薬指導や生活指導までおこなうのは難しく、患者さんもあまり正直に話してくれませんので、ぜひそういった情報を得やすい立場にある薬剤師からの情報に期待したいところです。本来一人の診療に必要な時間を、医者と薬剤師の2者で丁寧に埋めるつもりで、生活支援、介護者疲弊の早期発見、医療不信の芽をつむといった判断に結びつけること。その基礎としてセルフメディケーションが位置づけられるのではないでしょうか。

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