基調講演
「地域医療の課題と薬剤師の役割」 ~地域ぐるみで医療を守る取り組み~
ひらい あいざん平井 愛山 氏
千葉県立東金病院 院長■地域医療を圧迫する慢性疾患
日本の人口構成は、2000年を境いに大きく変わりました。また65歳以上の高齢者人口は今後20年で500万人増加し、医療財政を支える労働人口は1000万人も減少すると試算されています。
かつて経験したことのない少子高齢化時代に突入しつつある日本において、今もっとも深刻な影を落としているのが慢性疾患です。その一つが、この20年で患者数が3倍に増えた糖尿病。さらに糖尿病を基礎疾患として虚血性心疾患を合併した人や、糖尿病性腎症に移行して人工透析の導入を余儀なくされている患者もいます。このように治療が長期にわたる慢性疾患の患者が増えれば、必然的に国保財政の赤字が増え、医療費の高騰、医師不足など地域医療が圧迫されることになってしまいます。
そこで国が2006年より進めているのが医療連携の法制化であり、病院、診療所、薬局を含む地域ぐるみで慢性疾患の重症化を予防し、地域医療を守ろうという取り組みです。
■医療ネットワークで治療効果が上がる
医療連携とは、介入優先度の高い疾病に対して地域ぐるみで行うチーム医療のこと。その具体例として当院の取り組みを紹介します。当院では、地域の診療所医師や薬局薬剤師を対象に勉強会を開催することで診療所医師にインスリン療法の技術を移転し、ワークシェアリングができるネットワークを構築しています。コントロールが難しい患者は病院で、合併症に問題ない患者は診療所で対応する、循環型の医療連携システムです。薬局との連携においてもITを活用し、病院の医師から保険薬局の薬剤師に服薬指導に必要な情報をオンラインで提供、患者への服薬指導の結果を薬剤師から医師へもどすといった双方向の情報管理を可能にしています。
また個々の患者について治療の最適化に使うため、最低限のデータ(ミニマムデータセット)をもとにした疾病管理MAPを用いています。これにより、個々の患者情報に対して断片的に接するだけだったコメディカルが、患者の状態を俯瞰的にみることができるようになり、治療にあたる全職員がその必要性を認識した上で糖尿病重症化防止につとめるようになりました。この結果として、患者さんのQOLも高まり、糖尿病治療の成績も上がるなど、極めて良好な結果が得られています。
■コメディカルの一翼を担う薬剤師
昨年(2011年)2月、厚生省より「医師、看護士、栄養士のチーム医療で糖尿病の重症化予防を行う」という新しい制度設計が提起され、今年の4月から『糖尿病透析予防指導管理料』が新たに設けられ、チーム医療で、透析予防の指導を行い、指導した患者の一年後の状態変化を報告することを前提に、指導の月ごとに350点の診療報酬が算定されることになりました。透析導入患者を一人減らすことによってセーブできる年間医療費およそ500万円のある部分を、重症化予防に貢献した医療チームに還元するという考え方です。
このように、長期にわたる慢性疾患のマネジメントを外来医師一人で行う時代は終わり、コメディカルを中心とした疾病管理体制が重要な役割を果たす時代になっています。そして、この予防チームの一翼を果たすのが薬剤師であり、今後さらにセルフメディケーションの視点を生かしながら、服薬コンプライアンスの重要な役割を担っていただかなくてはなりません。地域医療の課題である慢性疾患の重症化予防に対する薬剤師の皆さんの活躍を期待いたします。