シンポジウム

講演1

「地方行政から薬剤師に望む」

さくらやま とよお
櫻山 豊夫 氏
東京都児童相談センター 所長
東京都福祉保健局 前技監

 かつてわが国においては医者のことを薬師(くすし)と呼んでいました。
治療といえば薬物治療(medication)が中心だったからでしょうが、外科治療、放射線治療をはじめ治療方法が多様化した今でも、なお薬物治療はその根幹をなしています。
 20世紀後半、医学の進歩や高齢化などにより疾病構造が変化し、治療医学だけでなく、予防医学、健康づくり、ヘルス・プロモーションの重要性が指摘されはじめ、1980年代には「自分の健康は自分で守る」というスローガンも掲げられるようになりました。結核などのように感染拡大を防ぐ必要がある感染症とは違い、高血圧のような生活習慣病は個人の努力で疾病を予防し、有病者を減らすことが可能です。
 とはいえセルフ・メディケーションで、自分の力だけで、健康を守れるわけではありません。正しい知識がなければ効果的な予防活動は実践できず、軽微な症状の陰に隠れている重篤な疾患を見逃す怖れもあります。「生兵法は怪我のもと」というように、専門家の助言のもと適切なセルフ・メディケーション行動をとることが大切なのです。
 現在、東京都保健医療計画では、薬局について「良質な医療を提供できる体制の確保」のために、「在宅医療の推進に必要な役割をはたすこと」を目標とし、かかりつけ薬局の育成に重点を置いています。セルフケア、セルフ・メディケーション領域においても、薬局薬剤師が、街中で気楽に相談できる「サイエンティスト」として活躍することが期待されます。

講演2

「医師の目から見た薬剤師教育」

ふじい さとし
藤井 聡 氏
名古屋市立大学大学院薬学研究科 教授

 医学教育は従来から6年制で、その多くは臨床実習に2年以上かけています。6年制となった薬剤師教育でも同じように臨床実習を充実させ、知識と臨床のバランスがとれた教育が必要と考えます。
これからの薬剤師には高齢化、慢性疾患の増加、医師不足などに対応し、セルフメディケーションの支援、OTCへの助言、生活習慣指導、的確な病院受診の助言も適切に行える、かかりつけ薬局としてのスキルが求められているのです。
 現在、名古屋市立大学では、「実務実習で教育指導にあたる薬局薬剤師のレベル向上が、薬学生の実務教育の充実に繋がる」という考え方に基づき、一貫した薬剤師教育として医療系学部と附属病院を活用した医療人養成研修コースを実施しています。また薬・医・看の3領域に分けた研修コースを設定し、地域医療に貢献できる薬局薬剤師を育成するとともに、将来はチーム医療にも貢献できる高い臨床能力の養成にも力を注いでいます。このほか症候論演習、セルフメディケーション推進のための臨床判断能力向上、問診の技法実習、ヘルスアセスメント、店頭検査、6年制薬学部のPBL等も多く採り入れています。
 こうした実務実習には座学では得られない多くの「気づき」があり、本研修で学んだ技能を実際に活用した事例も報告されています。6年制における薬局実務実習の充実と地域医療における薬局薬剤師の活用は車の両輪であり、互いに補い合える教育の姿と考え、大学で学生教育と生涯学習をシームレスに企画・実施することが大切だと思います。

講演3

「薬剤師と生活者とのコミュニケーション」

しのはら くにこ
篠原 久仁子 氏
フローラ薬局 代表取締役
東京薬科大学 客員教授

 セルフメディケーションは、決して自己判断に任せた自己治療や、狭義のOTC薬の販売に終わるものではありません。
生活者からの健康相談に耳を傾け、情報収集や必要に応じてフィジカルアセスメントも行い、症状に合った適切な薬を選択販売するか、医師への受診を勧奨するのか、生活養生で対応すべきかの選別(トリアージ)が適切にできる専門家のアドバイスが欠かせません。薬剤師法第一条の薬剤師の任務は、「薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする。」と明記されています。
 東日本大震災を体験した際には、トリアージによる救急医療の中で医師が診るべき優先患者が選別され、慢性疾患の通院患者の外来診療は休診となったために処方箋なしで薬歴、薬手帳の確認をもとに薬剤師の判断で調剤が任されました。この災害時のセルフメディケーション・トリアージを通じて、あらためて地域社会の薬剤師の任務と責任は大きいと感じました。また化粧品やシャンプーなど衛生用品の薬事法違反の販売で起こる健康被害や化粧品の接触皮膚炎も増えているため、医師と連携し、薬局内パッチテストで衛生用品の適合性検査を行うなど薬事衛生への取り組みも行っています。薬局が生活者から信頼される存在になるために、生活の身近にある薬と健康に関わる問題を「薬剤師の視点」から掘り起こし、検証し、地域に正しい情報を提供していきたいと思います。

講演4

「OTC医薬品販売におけるお客様対応」

くろさわ あきら
黒澤 章 氏
黒沢薬局 代表取締役
埼玉県薬剤師会 常務理事

 今回のシンポジウムに先立ちお客様からセルフメデョケーションについてアンケートを行ったところ、お客様がOTC医薬品の購入時に最も期待することは「薬剤師(登録販売者)が薬について詳しく説明してくれること」でした。
一方、これを必要としないという回答も多くみられ、今日の販売の多様化をみてもほぼ予想される結果でした。
 コンビニ、ディスカウント、ドラッグストア、一般薬局、調剤薬局、ネットストア等今はいたる所で利便性が進んでいますが、結果的にその商品価値の低下を招くことも少なからずあるようです。本来、風邪薬を購入した時に説明されるべき飲み方と注意事項などについて、誰からも言及される事がなく商品を購入して自己判断で服用する、これでOTC薬の本来の価値は保てるのでしょうか。
 OTC医薬品は、新薬事法の施行により第1~3類に分類され、第1類では、薬剤師による説明書を用いた説明が求められています。であれば、第1類医薬品には、製造者はパッケージと説明書を一体化し、販売薬剤師の記名欄を作るべきで、同様に第2類医薬品には、販売した薬剤師または登録販売者の記名欄を作るべきではないでしょうか。セルフメデョケーションの普及が叫ばれる中、医薬品の販売は店舗名だけでなく、そのキーマンとなる薬剤師の「見える化」(薬剤師の記名)が必須であり、これがOTC医薬品販売の問題を解決する根本的な方策であると確信致します。

講演5

「薬剤師のセルフケア支援」

ごとう けいこ
後藤 惠子 氏
日本ファーマシューティカルコミュニケーション学会  会長
東京理科大学薬学部 教授

 心疾患、脳血管疾患等につながる生活習慣病の発症、重症化の予防が緊急にもかかわらず、平成22年の特定健康診査受診率は約43%、受診勧奨後糖尿病未受診率は約35%となっています。
 本年度採択された「薬剤師が行う患者アセスメントは次のステージへSC(模擬顧客)・SP(模擬患者)を相手に血糖測定などの検査結果を上手に伝えよう」は、薬局を2次予防の場としても活用し、早期発見から受診勧奨、処方せん応需、薬物治療管理まで、検査データを共通言語とし患者のセルフケア意欲を高めていくことを前提としています。
 足立区での薬局店頭「糖尿病診断アクセス革命」では、指先採血HbA1c値測定により糖尿病が強く疑われる人は12.2%、特定健診結果の該当者は4.2%ということからも薬局アクセスの良さがわかると思います。
 SC・SP参加のワークショップでは、薬局店頭で指先採血HbA1c値測定結果を聞く場面と、降圧薬のコンプライアンスはいいのに糖尿病の薬は飲み残しているらしい患者への服薬指導場面を設定し、数値の意味だけではなく患者がなぜHbA1c値測定に関心をもったか、高血圧や糖尿病をどう捉えているかという患者の解釈モデルを薬剤師が上手に聞き出して、そのストーリーに検査データを結びつけて説明することを試みました。測定値のフィードバックが、患者の病識や服薬アドヒアランス、健康管理意識の向上につながるような「行動変容を促すコミュニケーション力をもつ薬剤師」があってこそ、暮らしの場でのセルフケア支援は有効に機能するものと考えております。

戻る

バックナンバー