基調講演
「動く喜び、動ける幸せ」 ~健康寿命延長における運動器の役割~
とやま よしあき戸山 芳昭 氏
慶應義塾 常任理事慶應義塾大学医学部整形外科 教授
■健康寿命を延ばす取り組み
我が国は世界に類を見ない超高齢社会に突入しているが、その結果として、特に中高年齢層では生活習慣病の増加、要支援・要介護者の増大等の課題に直面している。実際、65歳以上の高齢者比率は24%強で、2050年頃までには何と40%程度にまで上昇すると推計されている。このため今後の国の方向性として、単なる長寿ではなく国民一人ひとりが生涯にわたって元気で活動的に生活できる「明るい活力ある社会」の構築が強く求められている。そのため、国民の健康寿命を伸ばす“健康寿命延伸”をその基本戦略とし、この目標を達成するために生活習慣病や癌、認知症、精神障害等と共に運動器疾患への対応とその予防を国民と行政、医療側が一体となって推し進めることが必要である。運動器障害を原因として“寝たきり”となった要介護者数を減少させるためには、健全なる運動器機能を高齢者にも維持させることが条件となる。
■超高齢化時代はメタボよりロコモ
厚労省の資料でも高齢者の機能低下には特徴があり、特に筋骨格系疾患による下肢機能や基礎的体力の低下が引き金となり要支援・要介護の重症化へ向かうことが既に指摘されている。このため、運動器疾患重症化防止に繋げるための早期診断・評価システムの構築が強く求められている。行政もこの点を十分に理解し、平成18年4月より『運動器不安定症』を保険適応として承認した。本症は、“高齢化によりバランス能力や移動・歩行能力の低下が生じ、閉じこもり、転倒リスクが高まった状態”と定義され、下肢機能低下の原因となる運動器疾患を有する患者を対象に、一定の運動機能評価基準下に定め付けられた症候的病名である。しかし、健全な運動器を維持させるには、下肢運動機能に限定せず、四肢・体幹を含めた運動機能全体の低下をより早期に捉え、国民に分かり易く簡単に評価出来る指標として日本整形外科学会より提案されたのが「ロコモティブ症候群(ロコモ)」である。今後の更なる高齢化と共に“寝たきり”や“要介護者”の増加が予想される我が国の状況を鑑み、これらの防止には“メタボ”以上に“ロコモ”対策がより重要視されるべき症候群である。
■ロコモティブドミノの認知拡大へ
それらを反映して、今年4月から10カ年計画でスタートした「第二次健康日本21」の中に「ロコモ認知度の向上」と「足腰に痛みのある高齢者の割合の減少」の2項目が目標設定された。現在、国民への幅広い啓発活動が展開中であるが、加齢による骨粗鬆症や脊椎・関節障害、サルコペニアなどが原因となり、次第に運動機能が低下して転倒・骨折や歩行障害などの出現頻度が高まる“ロコモティブドミノ”を早期に止める対策を国と医療側が一体となって国民に示していく必要がある。
日本が世界一の長寿国、世界に誇れる健康国家を構築し、持続させるためにも運動器疾患対策は極めて重要な課題である。講演では、健康寿命延伸への運動器の役割を、最新データを示しながら概説する。