座長
黒川達夫 氏
慶応義塾大学 薬学部 教授 (本財団理事)天野先生は、日本大学医学部をご卒業後、関東逓信病院、亀田総合病院、新東京病院、昭和大学横浜市国府病院を歴任され、2012年より順天堂大学医学部教授を務めておられます。年間手術数は500例を超え、執刀総数は6700例以上。2012年には天皇陛下の冠動脈バイパス手術をご執刀され、予後も極めて順調であらせられますことは皆様ご承知の通りでございます。本日は、先生の医療に対するお考えをお話いただき、それを地域薬局のめざすべき道に生かしてまいりたく存じます。
基調講演
最近の心臓大血管手術と周術期管理について
あまの あつし天野 篤 氏
順天堂大学 医学部 心臓血管外科 教授 最近の心臓大血管手術を行う疾患的特徴は、生活習慣の欧米化に伴う動脈硬化性疾患、変性性疾患で、その傾向は肥満と高中性脂肪、低HDL、耐糖能障害の組み合わせから診断されるメタボリックシンドロームの増加傾向と少なからず相関がある。代表的な疾患とその外科的治療は、狭心症・心筋梗塞に対する冠動脈バイパス術、大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術、僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術、大動脈瘤に対する人工血管置換術、特に最近では低侵襲化されたステントグラフト留置術が治療器具の進化とともに大きな貢献を示している。
多くの術式において患者負担を減らすための努力は継続されており、特に冠動脈バイパス術における人工心肺非使用心拍動下手術は、欧米の15-20%と比べて60-65%と高い普及率を示し、その治療予後が極めて良好であることは、2012年2月に同手術を受けられた今上天皇陛下の術後を拝すれば明らかである。
最近の心臓大血管手術の特徴は何といっても高齢化であり、全身脆弱性に加え、他臓器合併症の管理如何で手術成績も左右される。貧血・脱水など術前予備力が不十分、動脈硬化危険因子による重要臓器の合併症、末梢血管・大動脈の石灰化などで手術の制約を受けることもある。また術後のストレスに弱く、食欲不振や回復遅延を来しやすいこと、心臓術後に合併する心房細動(不整脈)の頻度が高いなど、周術期の自己管理はリハビリテーションの一環といえる。一方、昨今はサプリメント剤や滋養・強壮ドリンクが手軽に利用でき、高齢者術後回復にも一定以上の効果を上げていることから、日本独特の予後改善にエビデンスを示したいと考えている。