シンポジウム

基調講演

 わが国の皮膚科研究は、世界でも冠たる地位を確保しているが、臨床となると話が違う。海外では治療できても日本では治すことができない疾患が少なくないからである。しかもこのことを日本国民はもちろん、医師も知らない。これを聞くと世間の人は、最先端の抗がん剤などの薬が日本ではなかなか使用できないからだと思っているが、これは必ずしも正しくない。むしろ生物製剤のような高価な薬は、東南アジア諸国より早く日本に導入されている。問題なのは、20~30年以上前から海外で使用され、有効性と安全性が確かめられている薬剤が、今でも日本では使えないことである。その一方で、海外ではその有効性が認められていないにもかかわらず、日本では効果があるとして大量に処方され、医療費高騰の原因となっている薬剤も少なくない。つまり日本は、アジア諸国よりも、薬物療法が劣った国となっている。

 実は私もこのことを知らなかった。日本の皮膚科治療が世界一流でないことがわかったのは、10年以上前からJICA(国際協力機構)の依頼で、バンコクにあるタイ国立皮膚科研究所で東南アジアおよび中近東から来ている皮膚科レジデントに美容皮膚科およびレーザー医学の講義をするようになってからである。私はその講義の中で、ニキビに対するレーザー・光治療の話をするついでに、世界標準のニキビ治療の話をした。日本では世界標準のニキビ治療を知っている皮膚科医は一人もいなかったので、私の講義はさぞや生徒たちの関心を引くのではないかと期待して講義に臨んだわけである。しかし私の講義は全然受けなかった。最初は私の英語がつたなかったためと思ったが、後でわかったことは、彼らはすでに世界標準のニキビ治療薬のことをよく知っていたし、また治療経験も豊富であった。彼らが興味を示したのは、世界標準のニキビ治療薬がどうして日本では認可されていないのかということであった。

 そこで、今回は日本の皮膚科治療の現状を話し、その問題点を世界標準治療と比べて述べることにする。ただし時間の関係で、すべての問題点に触れる事ができないので、以下の項目にしぼって講演させていただく。1)世界標準治療が使用できない疾患(尋常性乾癬、ニキビなど)、2)無駄な治療や検査が多い疾患(アトピー性皮膚炎など)、3)外用麻酔剤、4)海外より進んでいる外用抗真菌薬など。このような世界標準治療を導入する事により、わが国の医療費の削減が可能になる。

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