講演1
地域包括ケアシステムにおける かかりつけ薬剤師の役割
きひら てつなり紀平 哲也 氏
厚生労働省 医薬・生活衛生局 総務課 医薬情報室長 薬局・薬剤師はこれまで、主に処方箋に基づいた調剤を通じて有効かつ安全な薬物療法を提供することにより医療に貢献してきました。今後はそれに加えて、地域包括ケアシステムとして提供される住まい・医療・介護・予防・生活支援の中での役割が求められてきます。
厚生労働省では、昨年10月に「患者のための薬局ビジョン」を策定し、多剤・重複投薬や飲み合わせの確認、在宅対応も通じた継続的な服薬状況・副作用等のモニタリング等のかかりつけ薬剤師・薬局の機能をあらためて明確化しました。
また、本年10月からは、かかりつけ薬剤師・薬局としての機能を備えた上で地域住民の健康づくりも積極的に支援する「健康サポート薬局」の届出・公表が始まりました。健康サポート薬局には、地域包括ケアシステムの中で、地域住民による主体的な健康の維持・増進を支援し、多職種と連携して地域住民の相談役の一つとしての役割を果たすことが求められています。
このような中、薬剤師には、患者の生活を支える専門職の一員として、かかりつけ医や関係職種と連携して、患者の状態を継続的に把握する役割も必要となり、例えば生活機能の低下が疑われる方に対しては、関係機関でのフォローや受診勧奨につなげる役割も期待されています。厚生労働省では、テーマ別モデル事業の実施を支援するなど、薬局・薬剤師の積極的な取組を後押ししています。
講演2
地域包括ケアシステムにおける 認知症の現状と課題
やまざき だいさく山崎 大作 氏
元日本経済新聞社 編集局 企業報道部 記者 地域包括ケアでは、家庭という単位が弱まる中で、いかに患者や患者予備軍をコミュニティーが支えるかがポイントとなる。特に認知症に関しては、軽度認知症害(MCI)の段階では医療介入の対象にならないこともあり、医療外の場所で支えていくのが重要だ。
2015年に示された新オレンジプランの後押しなどもあり、近年、認知症患者や患者家族が相談のための認知症カフェが開催される機会が増えている。開設を支援する国や自治体などの動きも活発化している。薬局やドラッグストアでも、認知症カフェを設置するケースが増えている。健常者やMCIの段階の人にとって、医療機関へは足を運びにくくても、日常用品も取り扱う薬局やドラッグストアならばハードルは下がる。一方で認知症カフェのようなコミュニティーカフェの問題点として、事業性の低さが挙げられる。
これまで、必ずしも薬剤師はコミュニティーを意識した活動は必要がなかったかもしれない。だが、医薬品開発の難度が増す中、製薬会社はIOT(モノのインターネット)を活用してコンプライアンスや患者の状態を随時確認できるような仕組みを作って、医薬品の価値を高めようとしている。そのような動きが進めば、薬剤師による服薬指導やモニタリングの価値は相対的に低下し、ただ調剤をこなせばよいことになりかねない。短期的な事業性の低さとは関係なく、薬局やドラッグストアには今後、このような活動が求められるのではないか。
講演3
調剤併設型ドラッグストアの役割と 店頭及び店外実務
いけの たかみつ池野 隆光 氏
日本チェーンドラッグストア協会(JACDS) 副会長ウェルシアホールディングス株式会社 代表取締役会長
現在ドラッグストア団体として、また私どもウエルシアとして薬局、薬剤師の機能強化と共に、予防、医療、介護の3機能を1カ所で提供できる拠点づくりを進めています。このうち介護に関わる取り組みの1つが、「ウエルカフェ」です。「ウエルカフェ」は地域包括ケアセンターが主催するイベント会場とするなど楽しいふれあいの場として提供することで、外出のきっかけづくりにもなっています。
介護の2つめが、在宅サポートです。私どもは昔から地域の方々や他職種が集まる場でしたので、足を運ぶことが困難になったお客様に対して『私どもからお伺いします』というスタンスで、医師の指示のもと、訪問服薬指導及び介護支援を行っています。自宅に他人が上がるという難しいサービスですが、いつも店頭で話をしていた薬剤師の訪問ということで、喜んで受け入れてくださる。これも長年の信頼関係ができているから成立するサービスであり、これこそがご利用者様主体の地域包括ケアを推進する本流であると考えます。
現在、私どもでは認知症サポーターを養成し、地域包括ケアセンターを通してご家族にお伝えするサービスに取り組んでいます。こうした活動は、商品を売る通常業務とは異なり難しい面もありますが、地元密着のドラッグストアとして未病、予防、介護まで継続してサポートすることは、地域住民の信頼に応える重要な役割であると考えます。
講演4
薬剤師の認知症対応力
やまむら けいこ山村 恵子 氏
愛知学院大学薬学部 教授新オレンジプランでは早期診断・早期対応のための体制整備に向け、新たに薬剤師の認知症対応力向上が提言されました。これを受け、各自治体では薬剤師を対象とした病態・治療薬・認知症の人との接し方を学ぶ研修を開始しており、着実に知識・実践能力は向上していくと考えます。名古屋大学病院では2000年から「認知症薬剤師外来」を開設し、600名を超える認知症の方・その家族の方の様々な悩みや質問にお応えし、ツールを活用した認知症の早期発見に努めてきました。家族の方からの「薬のことはどうでもいいから、生活に役立つことを教えてほしい」との声は、新オレンジプランの「認知症の人の視点になって考える」と重なります。認知症薬剤師外来ではどうしたら服薬継続できるのか認知症の人とその家族に寄り添って一緒に考える。認知症治療薬が開始されたときの併用薬(処方せん医薬品・一般用医薬品)との相互作用による副作用発現を予測し処方提案する。認知症の状態に応じた処方提案をする、を核に実践してきました。薬局では服薬指導時や一般用医薬品販売時にいつもと違うと感じたら、生活の様子まで踏み込んで聞き取ることで認知症の早期発見に繋げることができます。医療・介護の相談には地域包括ケアネットワークを活用することも大切です。その方の生活の様子を把握したうえで医薬品適正使用に繋げることが薬剤師の認知症対応力ではないかと考えます。