シンポジウム

基調講演

 医学・医療の進歩により、わが国における平均寿命は著しく伸び、世界でも屈指の超高齢社会を迎えるに至った。しかしその一方で、要介護者数はこの15年で3倍に増加し600万人を超え、介護保険費用は10兆円を超え、国民に重くのしかかってきている。

 このような状況を鑑み、“健康寿命の延伸”はわが国における喫緊の課題の一つである。要介護の主な原因として、脳卒中、痴呆、運動器疾患があり、これらで約6割を占める。つまり健康寿命を延伸するためには、“呆けずに動ける”ことが極めて重要と言える。なかでも運動器疾患に対する先制医療と再生医療は、近未来の我が国の医療おいて重要な役割を担うと考えている。

 運動器には骨・軟骨、椎間板、筋肉、神経、腱・靱帯などの様々な組織があり、これらが老化により変性をきたし、その結果として疼痛や麻痺を生じ、ADLやQOLが著しく低下する。

 特に関節軟骨の変性による変形性膝関節症では膝関節痛を、また椎間板の変性に伴う頚部・腰部変形性脊椎症では頚部痛や腰痛のみならず、脊髄障害による麻痺をきたすため、さらにQOLは著しく低下する。

 従来の治療法では必ずしも十分な治療効果を上げることができなかったこれらの疾患に対し、基礎研究に基づく先制医療と再生医療の現状と展望を概説する。特に我々が注力してきたiPS細胞を用いた脊髄再生医療が何処まで来たのかについても言及したい。

 最後に、現在慶應義塾が取り組んでいるオープンイノベーション整備事業を紹介したい。慶應が目指すビジョンは、“人生100年時代の健康長寿を支えるスマート社会の創成”である。その実現に向けて、産学連携大型共同研究を通じた、高付加価値型の安心・安全な商品やサービスの開発と普及するための組織作りに着手した。

 重点領域として、メディカル・ヘルスケア領域とスマート社会領域を設定し、それらを繋ぐ次世代医療・ヘルスケアプラットフォームを構築する予定である。これらを通した今後のわれわれの取り組みを紹介する。

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