基調講演
形成外科(Plastic Surgery)とは「身体に生じた組織の異常や変形、欠損、あるいは整容的な不満足に対して、あらゆる手法や特殊な技術を駆使し、機能のみならず形態的にも正常に、より美しくすることによって、生活の質“Quality of Life”の向上に貢献する外科系の専門領域」と定義され、厚生労働省の定める19の基本診療科の1つである。従って取り扱う対象患者は新生児から超高齢者にまで及び、治療対象部位も頭の先端から足の先までといった幅広い領域を担う。しかしながら残念なことに、形成外科という診療科に対する国民の認知度は諸外国と異なり依然として低く、未だに「整形外科」や「美容外科」と混同されているのが現状である。
いかなる診療科においても、国民に求められる医療というものはその時々のニーズに応じて変遷していくものであるが、形成外科領域においても例外ではない。特に我が国が超高齢化社会に突入し、健康寿命の延伸が一層望まれている現在においては、高齢者に対する形成外科需要が一段と高まっている。加えて医学全体の進歩ならびに形成外科手術手技の向上により、かつては手術対象となり得なかったような様々な合併症を抱えた超高齢者もその治療対象に入るようになってきており、その需要は益々増加すると考えられる。
しかしながらその一方で、国民医療費の高騰とどのように向き合うのか、医療者側も真剣に考えていかないと折角の医療技術の進歩とそれを享受できる高齢者の増加に医療制度が追い付かず、結局国民のための医療にならないといったジレンマが一層拡大していく。そのためには形成外科も予防医療や先制医療の実行を見据えていく時代に入っているといえるが、それと同時にアカデミアは再生医療のような最先端医療も並行して研究開発を進め、世界の医療の進歩に貢献していかねばならない。
本講演においては、形成外科疾患データベースというエビデンスに基づいた、国民に求められている形成外科の現状や役割と併せて、我々が取り組んでいる最先端医療の一端を紹介したい。そして、セルフメディケーションという視点で形成外科が関与可能と考えられる領域についても私見を述べたい。
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