シンポジウム

基調講演

■皮膚の構造とドライスキンのメカニズム

 ドライスキン(乾皮症)を呈する疾患は多岐にわたるが、代表的な疾患としてアトピー性皮膚炎と高齢者に見られる皮脂欠乏症が挙げられる。皮膚の乾燥は表皮の最外層の角層の水分量が規定している。すなわち、肌の潤いは約20μm、ほぼサランラップ1枚の厚さの角層の水分量で決まる。

その角層の水分保持に重要な役割を果たすのは、皮脂膜、角質細胞間脂質と天然保湿因子の3つである。皮脂膜は毛穴から排出される皮脂が角層表面を覆うことにより、水分の蒸散を防ぐことで保湿に寄与する。アミノ酸などの天然保湿因子は、それ自体が水分保持力を有しており、尿素、ヘパリン類似物質なども含まれる。角質細胞間脂質は表皮細胞で産生され、角層間に放出され再構築される脂質で、セラミドが約50%を占めている。角質細胞間にラメラ構造を形成し、水分をサンドイッチ状に包み込むと同時に内側からの水分蒸散を防ぎ、外方からの異物、細菌などの侵入に対してのバリアの役割を担っている。

■アトピー性皮膚炎と皮脂欠乏症

 アトピー性皮膚炎では、一見、健常に見える皮膚においても乾燥状態とバリア機能の低下がみられるが、我々は患者の角層でのセラミド量を測定し、皮疹部位、無疹部位ともに健常者に比べセラミド量が低下していることを報告した。
このセラミド量低下の原因の一つは、健常人ではあまり見られない酵素がはたらいていることで、セラミド合成が低下している。セラミド量の低下によってドライスキンが常態化し、そこに刺激性の皮膚炎が起こり、さらにアレルギー性の炎症が加わることでアトピー性皮膚炎が完成する。したがって、アトピー性皮膚炎を繰り返さないためには炎症や湿疹ばかりでなく、日頃からドライスキンに対する十分なケアが必要となる。
もう一つの代表的なドライスキンが、皮脂欠乏症である。冬になると膝から下がカサカサ乾燥して痒くなるもので、そこに炎症が加わった状態を皮脂欠乏性湿疹と呼ぶ。これは万人に起こりうるドライスキンだが、特に高齢者においては、若年者に比較して角層での総脂質量とともにセラミド量が低下し、角層での天然保湿因子の減少も皮膚の乾燥状態をもたらしている。
 高齢者でセラミド量が低下するメカニズムについては、以前からスフィンゴミエリナーゼというセラミド合成酵素の低下が知られていたが、加えて我々はセラミダーゼという分解酵素が活性化することによってセラミドの分解が進むことを明らかにした。

■医療用とセルフメディケーション切り替えのタイミング

 乾燥皮膚の改善について我々が臨床的に用いているのは、主にヘパリン類似物質含有製剤、角層の軟化作用のある尿素含有製剤、皮膚を覆って水分の蒸散を防ぐワセリンで、人工皮膚を用いた評価ではいずれも有効性が確認されている。
アトピー性皮膚炎の乾燥皮膚は遺伝素因に起因するものであり、その治療の原則は医療機関での医薬品としての保湿剤の使用である。ステロイド外用剤や抗炎症外用剤等で炎症がおさまったとしても、依然としてアトピックドライスキンの状態でバリアが壊れているため、保湿剤を継続的に塗布して良好な状態を維持することが望ましい。
実際、寛解時における保湿剤の効果について検討したところ、炎症の鎮静から2週間の保湿剤を塗布した後、さらに保湿剤を6週間継続した患者は9割が炎症の再燃がなかったが、無処置の患者は4割が再燃した。

以上のことから、アトピー性皮膚炎においては炎症がおさまっても保湿剤の継続塗布が望まれる。ただし長期にわたって寛解状態にあるアトピー性皮膚炎患者においては、通院の負担、医療経済上の問題を考慮するとセルフメディケーションでの保湿剤の使用も許容される。
結論として、高齢者の皮脂欠乏症は万人が経験する症状であるため、軽症のうちは当然セルフメディケーションで対応し、アトピー性皮膚炎の場合は6ヶ月〜1年間くらい保湿剤のみで寛解が維持されている部位であればセルフメディケーション製品でも対応可能である。
ただし皮膚科医としては、セルフメディケーションに使用される保湿剤は、医薬品に準ずる効果と安全性が確認されたものであることを願いたい。

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