シンポジウム

講演1

「Withコロナで求められた薬局・薬剤師像とは」

こうの のりこ
河野 紀子 氏
日経ドラッグインフォメーション編集 副編集長

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大から2年以上が経過し、もはやコロナ禍前の日常業務が思い出せないという人も多いのではないだろうか。当初は「コロナなので」と開催していなかった他職種との勉強会を再開する地域も出てきており、不便さの中でも薬局や薬剤師としての役割を果たそうとする薬局、まだ活動的になれない薬局などに分かれてきたように見える。
 日経DIとDIオンラインではこの2年、新型コロナに関する様々な記事を報じてきた。未知の感染症だった当初から、治療薬、ワクチンが開発されていく中で、読者である薬剤師が求める情報も変化してきたように感じている。
 またこの1年を見ると、ワクチン接種の補助や新型コロナウイルスの抗原検査キットの販売など、地域から薬局や薬剤師に期待される業務が目立った。こうした有事の際に取り組んできたことは、今後ますます加速する医療業界全体のデジタル化の中で薬剤師の存在感を高めていくことにつながっていくのだろうか。
 非接触・非対面の技術の進歩にともない、服薬指導のオンライン化をはじめ薬局業務の常識が大きく変わろうとしている。「顧客」との接点に新しい技術をいかに取り入れるか、これからはさらに新しい制度・規制緩和へのアンテナを張っておく必要があるだろう。

講演2

「ドラッグストアの未来」

いけの たかみつ
池野 隆光 氏
ウエルシアホールディングス株式会社 代表取締役会長

 健康寿命延伸はウエルシアの使命である。厚生労働省が発表した健康寿命延伸プランは、2040年に健康寿命を75歳以上とすることを目標にしたもので、我々ウエルシアがこの目標に使命を持って取り組んでいくという思いである。ウエルシアの店頭で健康に関心を持ち、疾病に対して重症化予防の解決策を得られ、自立した生活を送る中で、地域の方々のつながりの場を持つ、そういう場を提供していきたい。
 健康リテラシーの向上のためには健康な方に対してどのように興味を持ってもらうか。これは健康な方が集まるドラッグストアが最適な場であると考える。セルフメディケーションの推進や、デジタル等、常に新しい取り組みで興味を持ち続けてもらう努力が必要になる。
 新たな取り組みを続け、地域がもっと健康になる、ここに挑戦し続けたい。薬剤師や栄養士、登録販売者といった専門家が地域の健康にどう貢献していくか。ドラッグストアが変わることで地域の健康寿命がどんどん上がっていく。そのために、専門家はもっと専門性を突き詰めていく必要がある。
 同時に医療のDX化などの新たな取り組みだけではなく、環境への更なる配慮など地域がもっと良くなるために何ができるかを考え、ドラッグストアが変わることで地域が変わり、結果として地域の健康寿命の延伸につながる未来を作ることが我々の使命である。

講演3

「COVID-19 宿泊療養施設における 一般用医薬品の使用状況と今後の課題」

はやし としのぶ
林 稔展 氏
福岡大学薬学部 臨床薬学教室 准教授

 令和2年4月に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発令され、福岡県では、病床のひっ迫を回避するために宿泊療養施設が開設された。我々は、宿泊療養施設において一般用医薬品(OTC)の適正使用と円滑な運用を行うため、OTCの使用状況を調査し、運用上の課題について検討した。
 福岡県内(福岡市、北九州市、久留米市)に開設された6つの宿泊療養施設におけるOTCの使用状況を、感染拡大時期ごとに分類し、薬効別および使用頻度別に後ろ向きに調査した。感染拡大の第1波から第3波において、解熱鎮痛薬の使用が最も多く、第3波からは鎮咳薬、トローチの使用割合が増加し、第4波では消化管用薬、鎮咳薬、経口ゼリー飲料の順で使用頻度が高かった。第3波では、呼吸器症状が重症化しやすいδ変異株による感染が拡大したことから、鎮咳薬の使用割合が増加したと考えられる。また、δ変異株が中心の第4波では、鎮咳薬と消化器用薬の使用頻度が増加した。
 OTCの使用状況を把握することで、流行株の症状の特徴を早い段階で把握でき、在庫管理や配備品目の見直しにつながる。2021年の第4波と2022年の第7波では、アセトアミノフェンの需給がひっ迫した。薬剤の使用動向を早期に把握し、情報提供や啓発活動を強化することで、医薬品適正使用や流通の安定化に貢献できると考える。まずは薬剤師に聞くという文化の醸成を含め、本調査の結果を踏まえてコロナ禍におけるセルフメディケーションのあり方について議論したい。

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