基調講演
■歯ブラシの習慣だけで歯周病は予防できない
歯周病は歯および歯肉に付着したバイオフィルムであるデンタルプラークにより引き起こされる細菌感染症であると同時に、日常の食生活やプラークコントロール習慣により引き起こされる生活習慣病でもある。その罹患頻度は世界的にも極めて高く「世界で最も患者数の多い疾患」としてギネスブックに収載されている。
これまでの歯周病予防、治療は歯ブラシ等を用いた機械的なプラーク除去が主体であり殺菌薬等を用いた化学的な方法はあまり推奨されてこなかった。それでも、歯ブラシ等の生活習慣の改善に伴い歯を有する高齢者数は増加し、80歳で20本以上の歯を有する人は平成28年時点で51.2%に達している。しかしスウェーデンでは80%以上の高齢者が20本以上の歯を有していることから、さらなる努力が望まれる。
このように残存する歯は少しずつ増加しているが、残存した歯の状態を見ると、特に高齢者においては4mm以上の歯周ポケットを有する歯周病罹患歯は増加し55.3%に達していることが示されている。つまり歯は残ったが、その多くが歯周病罹患歯であることになる。
最近では長期間にわたり持続性の慢性炎症を引き起こす歯周病が誤嚥性肺炎、糖尿病、閉塞性動脈疾患、あるいは早産・低体重児出産といった種々の全身疾患と関連があることが示されていることから、国民の健康増進にはさらなる歯周病の予防、重症化予防および治療が望まれる。
■歯周病のセルフメディケーション まずは歯科専門家と薬剤師から
歯周病の細菌感染症という面では抗菌薬を用いた効果的な治療法などが行われるようになってきた。一方で、生活習慣病の側面で見ると歯科医師や歯科衛生士は歯ブラシという機械的な方法に固執している面が否めず、十分な改善が行われていないように思われる。確かに薬に頼りすぎて歯ブラシがおろそかになることには大きなリスクがあるが、より効果的にプラークを除去、減少させるには殺菌薬等を併用することは極めて効果的であり、歯周病の予防や重症化予防に重要である。
歯ブラシ習慣が根付いてきた現在では、歯周病の予防、重症化予防には日常生活における口腔セルフケアの質の改善が必要となる。すなわち、適切に歯磨剤や洗口剤を使用したセルフメディケーションが重要となる。
セルフメディケーションを効果的に行うためには、各薬剤の性質や使用法を十分に理解することが必要である。例えば、洗口剤にはイオン系抗菌剤と非イオン系抗菌剤があり、使用するタイミングでさらなるバイオフィルムの破壊とプラーク抑制による歯肉炎抑制効果が期待できる。
歯周病ケアの理想は、日々の生活習慣、歯ブラシ、洗口剤・歯磨剤による日常のセルフケアに加えてプロフェッショナルによる定期的な口腔ケアを習慣化することである。しかし、セルフメディケーションとしての洗口剤・歯磨剤のセルフケアにおける導入については、残念ながらこれらを指導する日本の歯科医や歯科衛生士の意識が伴っていない感がある。
歯周病に対するセルフメディケーションを普及させるには国民への啓発も重要であるが、まずは歯科医師、歯科衛生士、薬剤師への啓発が必要であり、効果的な洗口剤等の選択や使用法などを理解いただいた上で積極的に患者の口腔セルフケアに係わっていくことことが、さらなる国民の健康維持増進につながるものと考える。