パネルディスカッション
「ヘルスリテラシー向上とセルフメディケーション
〜各分野の取り組み〜」
テーマ説明
超高齢社会が深刻化する2025年を目前に、年金・医療・介護を支える社会保障の足下がゆらいでいます。
そのような日本において、喫緊の課題となっているのがセルフケアの拡大であり、健康スキルとしてのヘルスリテラシー向上が国民一人ひとりに求められています。
ヘルスリテラシーとは「健康や医療に関する正しい情報を入手し、正確に理解して活用する能力」のこと。そして、これを分かりやすく教え導くのが薬局・薬剤師の役割であり、薬剤師には確かな知識に裏打ちされたコミュニケーション力が求められています。
本ディスカッションではアカデミア、ドラッグストア、メディアの専門的な視点から、国民のヘルスリテラシー向上に対してどのようにアプローチされているのかをご紹介いただき、続くディスカッションでは、医師の視点から基調講演の大久保先生も交えて意見交換を行っていただきました。
総括
まず河野氏より、情報を提供する側に求められる「ユーザーフレンドリー」について問題が提起され、なかでもネット上で医療情報を伝える難しさについて、過去の事例をもとに示されました。
真の意味での「ユーザーフレンドリー」は、薬剤師が想像力を働かせ受け手の立場に立って情報提供することが大切であり、受け手側はその情報を実際にセルフケアに役立てることでヘルスリテラシーの向上につながると教えてくださいました。
安部先生は、子どもに対する健康教育において、漫画や劇など新鮮な感動体験がヘルスリテラシー教育に結びつくと指摘。同じく薬剤師をめざす学生についても、感動をともなうコミュニケーションの積み重ねにより、ヘルスリテラシー向上に貢献する人材の育成につながると述べられました。
一方、高齢者は健康不安があると薬や食品をプラスする傾向にあるため、薬剤師として高齢患者に対応する際は、敢えて足すことより引いてみることで健康基盤を整えるよう提案しているとのことでした。
そしてイオンの工藤氏が紹介してくださったのは「からだの健康」「こころの健康」の両方をサポートする治療、介護、予防を一体化した取り組みについてでした。また店舗内にデイサービスを導入して、高齢者の孤立を防ぐとともに運動メニューや時宜を得た情報によって高齢者のヘルスリテラシー向上に貢献されていました。
大久保先生は、症状が数値化されない花粉症のような疾病こそセルフメディケーションの概念が必要と示唆されました。
病院の薬か、OTC薬か、手術するべきか、その判断で最も大事なのは、何より自分の体についてよく知ることです。その点において、子どものうちから自分の健康に興味をもち、医師や薬剤師に体の状態を正確に伝える教育がヘルスリテラシー向上につながり、その先のセルフメディケーションスキルにもつながっていくと述べられました。
国民一人一人が笑顔になれる、そのような日本に向かって、本日のディスカッションが良いヒントになれば幸いです。
慶應義塾大学薬学部 医療薬学・
社会連携センター 教授 山浦 克典 氏
パネルディスカッションの様子
参加者
【座 長】
山浦 克典 氏 慶應義塾大学薬学部 医療薬学・社会連携センター 教授
【パネリスト(左から)】
大久保公裕 氏 日本医科大学大学院 医学研究科 頭頸部感覚器科学分野 教授
河野 紀子 氏 日経ドラッグインフォメーション編集 副編集長
工藤 真紀 氏 イオンリテール株式会社 執行役員 H&BC本部 本部長
安部 恵 氏 日本大学薬学部 薬剤師教育センター 准教授