シンポジウム

講演1

ヘルスリテラシー向上に不可欠な“ユーザー
フレンドリー”の視点

こうの のりこ
河野 紀子 氏
日経ドラッグインフォメーション編集 副編集長

 ヘルスリテラシーとは、健康に関する情報を入手、理解、活用する能力を意味している。医療に関して専門的に勉強してきた薬剤師にとっては、一般の人がどのような情報や伝え方が分かりやすく納得しやすいのか、反対に誤解を生みやすいのかといったことが理解しにくいかもしれない。だからこそ、「本当にこの説明で相手は理解できるか」に思いをはせる必要がある。最近、IT業界で使われることの多い、ユーザーフレンドリー(利用者にとって使いやすい)という視点に近い考え方だと思う。
日経DIでは創刊時から「日経DIクイズ」を連載し、患者に対する服薬指導や情報提供を台詞で紹介してきたが、まさにこの編集方針を守りつつ、難しい言葉を使わない、シンプルな表現にするよう留意してきた。
 また、昨年から薬局では新型コロナウイルス感染症の一般用抗原検査キットを販売する機会が増えた。だが、キットはメーカーごとに使い方も様々だ。実際に取扱説明書を読み、使ってみることで、購入者にとって役立つ情報提供につながるはずだ。
 関連して、最近、「薬剤師業務の見える化」の重要性を各所で耳にするが、各業務や情報提供の受け手にとって理解しやすいように情報発信していくことも重要だろう。

講演2

毎日の暮らしに寄り添うイオンのヘルス&
ウエルネス

くどう まき
工藤 真紀 氏
イオンリテール株式会社 執行役員 H&BC本部 本部長

 イオンは「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域に貢献する」という基本理念のもと、絶えず革新し続けてまいりました。当社を取り巻く経営環境は、国内の社会経済活動に回復の兆しが見え始めている一方で、不安定な国際情勢や世界的なエネルギー・原材料価格の高騰など、不透明な状況が続いています。
イオンは厳しさを増す環境変化を成長の機会と捉え、中期経営計画で掲げた「5つの変革(①デジタルシフトの加速と進化、②サプライチェーン発想での独自価値の創造、③新たな時代に対応したヘルス&ウエルネスの進化、④イオン生活圏の創造、⑤アジアシフトのさらなる加速)」及び「環境・グリーン(GX)」をグループ全社で取り組んでいます。その中でも、世界に先駆けて超高齢化社会を迎える日本において注目されているのが「ヘルス&ウエルネス」です。
イオンでは、お客さまの「身体的な健康」だけでなく、「精神的な充実」や「地域社会とのつながり」といった3つの側面が総合的に充足された状態、それを実現する取組を「ヘルス&ウエルネス」と位置づけます。この領域においてイオンが目指す方向性は、1つは、社会全体において病気そのものを予防・未病段階で抑制すること。2つめは、高齢者の身体や生活機能の低下を運動・栄養指導により抑制することで、サスティナブルな社会実現に貢献すること。すなわちヘルス&ウエルネスの「民主化」を目指しています。

講演3

ヘルスリテラシー向上に向けたハイブリッド
薬剤師(実践・教育・研究)の取り組み

あべ めぐみ
安部 恵 氏
日本大学薬学部 薬剤師教育センター 准教授

 健康に関する情報に誰もが気軽にアクセスできる時代。 健康を追求する人々が増え、「健康のために何を摂ったらいいだろうか」と「足すこと」のアプローチに焦点が集まっていると感じている。
そんな中、私は実践者として「引くこと」の支援に注力している。足すより前に、負の要素を「取り除くこと」が健康への第一歩だと考えている。そして、小学生でも知っていて、誰にでもできることでありながら、やっていなくて、続けることができていない「原理原則」に立ち返ることが健康の基盤構築になる。未来を変えようとするなら、過去を見直し「原理原則」を実践する。その大人の姿は、自然に子どもの健康リテラシー向上に好影響を与えるものだとも感じている。
 教育者としては、学校薬剤師として子どもたちに、大学の教員として薬学生に、「感動体験」を通して教育を実践することを目指している。何かを学ぶのに自分自身で経験する以上に良い方法はない。その経験が「心動かされる体験」であったならば、その記憶は深く刻み込まれ、未来の思考や認識、行動に大きく影響を与えると考えている。 
 研究者としては、現場の健康課題を解決し、かつ「感動体験」を具現化できる教育の方法や教材の開発に取り組んでいる。実践の場に身を置くからこそ見えている課題がある。 
実践、教育、研究を融合させた健康リテラシー向上に貢献できるアプローチをこれからも実践していきたい。

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