基調講演

増加の一途をたどる“国民病”花粉症と経済損失
スギ花粉症はスギによるアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、そしてスギによる全身のアレルギー反応の症候群である。
2019年の有病率調査ではスギ花粉症は38.8%であった。同じ調査方法で1998年は16.2%、2008年が26.5%であることを考えると、大きく有病率が上昇している。この20年で10歳代は2.5倍、10歳以下だと20年で4倍にも増加した、国民病とも呼ばれる疾患である。
この人口統計から読み取るべきポイントは、花粉症が働き盛りのQOLを著しく低下させ、経済損失を招いているということである。花粉症はプレゼンティーズム(生産性が低下していても休めない状態)の疾患であり、他の疾患と比しても生産性の損失が顕著である。そのため、行政も花粉症対策に乗り出し「アレルギー疾患対策基本法」や「免疫アレルギー疾患研究10か年戦略」といった取り組みを進めている。

約二千万人の花粉症患者がいる日本において、この損失をいかにして医療費で取り戻せるかが課題であり、軽症の人へのOTC薬治療に大きな期待が寄せられている。
花粉症による経済損失とスイッチOTCの活用
花粉症の治療としては、抗ヒスタミン薬の増量やステロイド薬を用いる薬物療法、舌下免疫療法の併用、アレルゲン免疫療法、IgE抗体療法、手術療法があり、それぞれの分野において世界的に研究開発が進んでいる。
症状に応じた抗ヒスタミン薬の増量はこれまで皮膚科において臨床的に可能であったが、保険適用を受けて初めてアレルギー性鼻炎治療に抗ヒスタミン薬増量の治療オプションが加わった。
この抗ヒスタミン薬では数多くのスイッチOTC(第2世代抗ヒスタミン薬)が発売され、その市場は年々増えて約200億円の市場規模となっている。この先も先端研究で誕生した新しい薬剤のスイッチOTC化が進むと思われるが、OTCは副作用も少なく一定の効果を上げる事が期待されるため、およそ1〜2週間の服薬で対応できる軽度な症状であれば、受診行動ではなく薬局・薬店での対応を考えていきたい。

現在、花粉症の有病率は40%とひじょうに高く、生産性が下がった患者一人の作業効率を5%上げるだけで数百億の経済効果が見込まれる。医療研究とスイッチOTC化の両輪で治療の選択肢が広がれば、医療経済効果はより大きなものになるだろう。
今後は約1/3の軽症の方々をセルフメディケーションで、1/3の重症の方を医療で、残る1/3の中等症の方を振り分けることで、皆様に毎年2月〜4月の健やかな生活を広く提供できると同時に、こうした協働が我が国全体の医療経済にとって有益なものになると考える。
薬物療法では抗ヒスタミン薬の最新の脳内移行がPETデータとして掲載された。また臨床試験の結果より保険適用上も増量が可能な薬剤としてレボセチリジン、ルパタジン、エメダスチンフマル酸塩経皮吸収型製剤が記載された。
ダニ通年性アレルギー性鼻炎、スギ花粉症を合併している患者に対するdual sublingual immunotherapyの安全性が評価された。4週間の単独抗原での舌下免疫療法施行後、5週目からは2抗原を5分間隔で行うダブル舌下免疫療法が行われ、どちらの抗原を先に始めてもそのオーバーオールの副作用発生状況は変わらず、アナフィラキシーショックが生じていなかった。抗IgE抗体、オマリズマブはヒトIgEの定常領域で、Fcε受容体Ⅰと結合するCε3に特異性を持つ抗体ヒト化単クローナル抗体である。すでにオマリズマブは重症気管支喘息、慢性蕁麻疹の治療に日本でも用いられている。各国に先駆けて、日本で初めて、12歳以上の既存治療で効果不十分な重症または最重症の季節性アレルギー性鼻炎に対して保険適用を取得した。このように幅の広がる花粉症治療であるが、その医療経済は増加していることは明らかである。
セルフケアでは外出した際の状況で鼻の穴に詰めるタイプのマスクを通常のマスクの中にしておく様な方法も取られ、鼻の穴に液体をスプレーするものもある。鼻をかむのにもボックスティッシュは、常に一番上が外気にさらされ、花粉やウイルスが付着している可能性もあり、ポケットティッシュが良いこともある。このようなセルフケアも含めて医療経済を考えてみたい。