シンポジウム

講演1

生活者が一般用医薬品を活用したくなる
ためのヒント

こうの のりこ
河野 紀子 氏
日経ドラッグインフォメーション編集 副編集長

 2024年の薬局業界において、一般用医薬品の関心事といえば、6月の調剤報酬
改定で地域支援体制加算の施設基準に「一般用医薬品及び要指導医薬品等(基本的な
48薬効群)の販売」が加わったことだろう。
日経DIでも6月号で特集を組み、販売のコツとして、(1)ドラッグストアにない強みを打ち出す、(2)売れるツボを押さえた商品ラインアップ、(3)限られたスペースを有効活用、(4)タイミングを見逃さず適切な商品を薦める、(5)複数商品から最適な“一品”を絞り込む──として、5つのポイントを紹介した。
 もちろんこうしたノウハウは非常に重要な視点だが、そもそも薬局薬剤師の中でも“調剤薬局”でOTC薬を販売する必要性を感じないという人が29%、どちらとも言えない人が15%いることに驚く。とはいえ現状を悲観するのではなく少し視点を変えたい。
 厚生労働省による「患者のための薬局ビジョン」では2025年までに「全ての薬局がかかりつけ薬局に」をうたっている。かかりつけ機能というと、服用薬の一元管理や夜間休日対応、在宅対応、医療機関との連携が挙げられているが、患者のニーズに合わせて強化・充実させるべき機能として、健康サポート機能がある。
最近、私が現場を取材していて、生活者に寄り添ってOTC薬を販売している薬局は「かかりつけ機能が強い」ことに気づかされた。販売する側も、購入する側も無理なく、一般用医薬品の活用につなげている。

講演2

スギ薬局グループの取り組み~地域から必要と
され続けるドラッグストアであるために~

すぎうら しんや
杉浦 伸哉 氏
スギホールディングス株式会社 取締役副社長

 少子高齢化が進む社会で、限りある医療資源を有効活用するとともに、国民の健康作りを推進するため、国はセルフメディケーションを推進しています。
 コロナ禍には、感染リスクへの不安から医療機関の受診を控える傾向がみられ、軽度の身体の不調時は市販薬を活用して自ら治療を行うセルフメディケーションが進みました。また同時に、感染防止や重症化予防の観点からも健康に対する意識が高まりました。
 その中で、医薬品・健康食品などの豊富な品揃えに加え、薬剤師・登録販売者・管理栄養士といった専門家に気軽に相談できるドラッグストアは、地域の方々にとってなくてはならない存在になれたように捉えています。
 スギ薬局グループは、地域のお客様一人ひとりの健康を生涯にわたり支援していく「トータルヘルスケア戦略」を推進しています。「トータルヘルスケア戦略」とは、生まれてからお亡くなりになるまでの期間を「セルフケア領域」「医療・服薬領域」「介護・生活支援領域」の大きく3つのステージに分け、どのような健康状態であっても接点を持つことにより、それぞれのステージで個々の状態に合わせ、リアルとデジタルを融合させて最適な商品・サービスを提供する戦略です。
 セルフメディケーションとの関連が深い、「セルフケア領域」における取り組み(専門人財による専門サービス、健康ニーズを踏まえた商品展開・商品開発、地域住民への疾患啓発など)を推進してまいります。

講演3

地域医療における薬剤師への
タスク・シフトの 推進

まえの てつひろ
前野 哲博 氏
筑波大学 医学医療系 地域医療教育学 教授

 急速に進む高齢化を受けて、地域における医療サービスの確保が大きな問題となっている。地域住民の健康を守るためには、医療機関内だけのサービスでは難しく、住民に近いところで接点の多い薬剤師への期待は極めて大きい。これからの薬剤師は、既存の枠組みを超えて、活躍の場を地域や在宅に広げていくことが求められている。
 その期待に応えるために、薬剤師は、何らかの症状を訴えている患者に対して、医療機関を受診する前にまず相談に乗り、系統的かつ合理的な病歴聴取と臨床推論に基づく適切なアセスメントを行い、セルフメディケーションの推進や的確な受診勧奨につなげていく能力が必須となる。
 さらに、地域包括ケアシステムを構成する一員として、多職種と連携しつつ、包括的な保健・医療・福祉サービスを提供していく役割も求められる。このことは、令和4年度改訂版薬学教育モデル・コア・カリキュラムでも「総合的に患者・生活者をみる姿勢」として、薬剤師として求められる基本的な資質・能力の一つとして明確に位置づけられている。
 このように、地域で活躍する医療人に求められる能力が変化していく中で、これまで他職種が担っていた業務を新たに担うタスク・シフトを推進するためには、その業務の遂行に必要な能力を新たに修得するための教育が必須である。その実践のために、教育者側も既存の枠組みを越え、職種の壁を越えて、新たな教育プログラムを導入していくことが望まれる。

戻る

バックナンバー