講演1
消費者が誤認・混乱しない情報提供の
在り方とは
こうの のりこ河野 紀子 氏
日経ドラッグインフォメーション編集 副編集長
保険薬局で、OTC薬に関心を持つ薬剤師が着実に増えている印象だ。最近では、地域支援体制加算の施設基準に48薬効群の取り扱いが入ったことが話題になったが、日経DIの読者の中でも比較的若年層の薬剤師が関心を持っている様子がうかがえる。
今年に入り、プロトンポンプ阻害薬(PPI)のスイッチOTCが複数登場したほか、緊急避妊薬のOTC化も行われることが決まった。薬局、薬剤師にとって新たな薬の登場がムーブメントとなっている今こそ、消費者や患者への情報提供について改めて考えるタイミングと言えるだろう。
スイッチ化される成分であれば、医療用との違い(これまで医療用で服用した経験がある人から質問される可能性があるため)、どのような患者にお薦めするのか、受診勧奨のタイミングなどの観点から、OTC薬としての情報提供について確認しておくとよいかもしれない。
またOTC薬と同じく、いわゆる「健康食品」と言われるものについても情報をアップデートしておきたい。この分野はテレビ、SNS(交流サイト)や口コミなどで情報が拡散しやすいからだ。特に今年も猛暑で、熱中症対策に関心が高かったが、経口補水液のルール変更(清涼飲料水との誤認)に関してはあまり認知されていなかったようだ。
セルフメディケーションへの関心が高まる一方で、SNS等により誤情報も拡散されやすくなっている。情報提供側としては、消費者庁等も含めた幅広いソースから情報を収集し、最新情報を正しく伝えていくことが必要と考える。
講演2
ドラッグストアがWell-Beingに
果す役割
つかもと あつし塚本 厚志 氏
⼀般社団法⼈ ⽇本チェーンドラッグストア協会 会⻑
日本チェーンドラッグストア協会(以後JACDS)は、「国民の健康と豊かな暮らしに寄与すること」を目的として1999年に発足し、地域住民の皆様へセルフケア・セルフメディケーションの推進や調剤サービスの提供という形で活動してきた。ドラッグストア業界は毎年成長を続け、協会設立25周年を迎えた昨年、店舗数23,000店舗、売上高は10兆円となった。
セルフケア・セルフメディケーションを推進する当協会の目標を具現化するためには、法律や規制に関して関係省庁や行政、関係団体等との協力・連携体制のもと、生活者の視点と立場から建議することも重要な役割であると考える。
これに関連してJACDSは、①スイッチOTC拡大 ②第一類から第二類への速やかな移行 ③各種検査キット、検査薬の第二類への移行 ④生活者に寄り添ったセルフメディケーション税制の恒久化の4つを提言している。
こうした地域住民の健康維持増進についての取り組みや課題解決を通して、ドラッグストアはお客様にとって最も身近な存在になりつつある。今後はさらに、安心してセルフケア・セルフメディケーションを生活の中に取り入れていただけるよう環境整備につとめ、持続可能な社会保障制度を構築して健康寿命の延伸につなげていきたい。
そして、お客様が健やかに美しく年齢を重ねる、いわゆるサクセスフルエイジングのお役に立ち、「生きがい」「やりがい」「人生の喜び」を創造することで世界中のWell-Beingに広く貢献していきたいと考える。
講演3
薬剤師と⻭科医師の連携による⼝腔ケア
〜セルフメディケーション推進に向けた栃⽊県の取り組み〜
しかむら よしあき⿅村 恵明 氏
東京理科⼤学薬学部 薬局管理学 教授 一般社団法人栃木県薬剤師会 副会長
2024年度調剤報酬改定では、地域支援体制加算の施設基準に48薬効群のOTC医薬品を取り扱うことが新たに追加され、薬局におけるセルフメディケーション推進の重要性が示された。また、「服薬情報等提供料1」の算定対象に歯科医師への情報提供が加わるなど、薬剤師と歯科医師の連携が制度的にも後押しされている。さらに、薬学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂においては「口腔ケア」が学修事項として位置づけられるなど、薬剤師に口腔ケアへの関与が求められ、期待されている。
薬局では、歯磨剤や洗口剤、義歯洗浄剤など多様な口腔ケア商品を取り扱っており、薬剤師の積極的な関与はセルフメディケーションの推進に直結する。一方で、OTC医薬品等を長期に使用している人の中には重篤な疾患が潜在している可能性もあるため、適切に受診を勧める判断力が求められる。
このような状況の中、栃木県薬剤師会では歯科医師と連携して「オーラルケア商品の継続購入者に対する薬局薬剤師の歯科受診勧奨ガイドライン」を作成した。本ガイドラインは、顧客の状況に応じた歯科受診勧奨を通じて、安全で効果的なセルフメディケーションの実践を支援することを目的としている。なお、薬剤師は顧客の訴える症状が薬の副作用によるものか否かを必ず確認した上で、歯科医師への受診勧奨を行わなければならない。副作用の可能性がある場合は主治医に処方変更の提案をすることが連携の信頼性を高める上で重要である。また、受診勧奨を行う適切なタイミングを逃さないためには、次の来局を待つのではなく、電話等による商品購入後のフォローアップ(症状や使用状況の確認)を実施することも推奨したい。
このように、薬剤師と歯科医師が連携し、セルフメディケーションの支援や受診勧奨を適切に行うことで、地域におけるより質の高い口腔ケアが可能となる。